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*四 神事の失敗

last update Last Updated: 2025-08-31 18:00:05

 二人に任せる、と楓が呟いた次の瞬間、景色が反転し、松葉に口付けられていた。

 キスは、いきなり舌を口中に挿し込むような深いもので、いやおうなしにこじ開けられる。床に縫い付けられるように押し倒された楓は、重なる大きな身体になすすべなく蹂躙じゅうりんされていく。

「ン、ンぅ! ンぅ、んっぐ!」

 キス自体が初めてなので、最中の呼吸の仕方もわからない。吸われるがままに舌を吸われ、なぞられるままに歯列も上あごもなぞられる。舌先が触れるたびに、ゾクゾクとした寒気とも違う何かが背筋を這っていく。それを、体のどこかが気持ちがいいものと認識しつつあることに、楓は戸惑いを隠せない。

 その視界に、ちらりと松葉と常盤の方にそれぞれ、薄く赤い古い傷跡が見えた。

 あれは何だろうか……そう、一瞬気がそれたが、すぐさままた口を口で塞がれ、意識が戻される。

 もがき抗おうにも、松葉の体は楓よりはるかに逞しく筋肉質だ。ちょっとやそっと押したくらいではビクともしない。しかも、楓のそんな素振りさえ彼の琴線に触れるのか、口付けつつ片頬をあげ囁く。

「そう邪険にするなよ、神子様……俺に任せるつっただろう?」

「で、でも……ッあ、ンぅ! ッや、そこ、あ、あぁ!」

 唇が離れても、体は密着したままなので長い指が巧みに楓のあわせをはだけさせていく。たちまちに露わになった胸元に指先が這い、普段は存在を意識すらしない小さな突起を摘ままれる。ピリッと走る痛みを伴う快感に、以前友達に付き合って見せられたAV動画の女優のような声が出て、驚く。

 本当に、自分はこのまま彼に抱かれてしまうんだろうか。男としてのプライドだとか、未知への恐怖だとかがない交ぜになり、呼吸が速くなっていく。

「ッは、あ、はぁ、はぁ……待っ……あ、ン! やめ……ッ」

「やっぱりおぼこいのは新鮮だな。愛らしくて啼かせたくなる」

 胎の上や胸元に舌を這わされまさぐられるたびに、ぞわぞわと肌が泡立つため、楓は全力で拒むつもりで首を横に振り、身を捩る。しかしそれはあまり意味をなさず、余計に松葉を刺激するのか、一向に愛撫が止まる気配がない。それどころか肌に触れる舌は音を立て始め、羞恥心を煽っていく。

 その内に、なにか熱く重たいものが楓の股間に重なるのを感じ、体を強張らせる。重なるそれが何であり、どのような状態であるのかなど、男の体をしていればわかる反応をしているからだ。

「いや! いやだ! やめて、放して!」

 この激しい愛撫の先に待ち受けている行為を想像するだけで、血の気が引く思いがする。こんな布越しでも熱量を感じる屹立が自分のナカを貫くなど、耐えられるわけがない。

 全身の力を振り絞り、どうにか松葉を跳ねのけ、這うようにして楓は逃げ惑う。薄暗い寝所の中は逃げるには狭く、すぐに何かに行き当たる。

 それは楓と同じ白い着物――恐る恐る顔を上げると、憐れむような眼を向けてくる常盤が膝をついて待ち構えていていた。

 常盤は松葉のようにギラギラと欲情を前面に押し出してはいない。しかし、薄く微笑む姿がかえって不気味でもある。楓は、ぞくりと背筋が凍るような恐怖を覚え、その場にへたり込んでしまった。

 腰が立たなくなった楓に、常盤は膝立ちで歩み寄り、そっと頬に触れ、微笑みかける。

「申し訳ございません、神子様……松葉では少々刺激が強すぎますでしょう。私が先にお相手を務めさせていただきましょう」

「え……あ、ッや……あ、んうぅ!」

 物腰はやわらかだが、そこに楓の意思も拒否権もなかった。やさしく触れつつもしっかりと楓の後頭部を捕らえたかと思うと、今度は常盤が唇を重ねてくる。しっとりと遠慮がちに、しかし動きは大胆に口中を舌が探ってくる。たちまちに濡れた音を立て始めた唇を、楓は震えながら受け止めるしかない。

 やがてまた常盤に組み敷かれた楓は、口付けを受け止めつつ、またはだけた肌をまさぐられ始め、逃げ場を失う。

「ッや、あ……ッ! ん、なン、で……や、だぁ……」

「神子様、しばしの辛抱でございます……どうか我らを受入れ、精を注がせてくださいませ」

 そう、懇願するように常盤が囁いたかと思うと、乱れた裾が開かれ、下着も何も身に着けていない体が露わにされる。そこは緩く勃起してはいるものの、完全に熱を発してはいない。むしろ、想像もしていなかった事態に怯えてすらいる。

 しかし震える楓の花芯を目にした途端、それまで柔和だった常盤の表情が|嫣然《えんぜん》と揺れ、舌なめずりしたのを、楓は見逃さなかった。それはまさに妖怪のような人ではない生き物が見せる表情で、すぅっと血の気が引くほどの恐怖を覚えた。肩の傷痕が、その笑みを誇張させている。

 恐怖で身を強張らせる楓の背後から、松葉も抱き着いて来て、前後を塞がれる。

「捕まえたぜ、神子様……さあ、お戯れはここまでだ。神事とやらをしようじゃないか」

 耳朶を食みつつ松葉が囁き、こちらもまたペロリと唇を舐める。そうしてチラつく二人の鋭そうな八重歯に、楓は文字通り震えあがる。何より、肩の傷痕が彼の荒々しさを際立たせてさえ見えた。

 喰われる……! 本能がそう体内から叫ぶように警鐘を鳴らし、それは悲鳴となって楓の口をついて出ていた。

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